インターナショナルスクールと半導体産業【前編】

TSMC・ラピダス・マイクロンによって変化するインター業界

生成AIの急速な普及によって、電力、ストレージなど波及効果が高い。
中でも、世界の半導体産業は、投資額の規模も兆円単位で進み、世界の株価を押し上げている。

日本においても半導体産業は、大きな影響を与えている。

熊本県ではTSMC、北海道ではラピダス、そして広島県では米マイクロン・テクノロジーがAI向け半導体への大型投資を進めている。

広島県では、2026年7月に米国のマイクロンが広島工場に1兆5,000億円を投じ、AI向け次世代メモリー「HBM(High Bandwidth Memory)」を生産する新製造棟の建設を開始した。

これらは単なる工場建設のニュースではない。

半導体産業への投資は、日本の国際教育市場にも新たな変化をもたらしている。

インターナショナルスクールは、これまで教育施設として語られることが多かった。しかし現在、その役割は大きく変わりつつある。

高度外国人材を呼び込み、企業誘致を支え、地域の国際競争力を高める「産業インフラ」として、新たな役割を担い始めているのである。

インターナショナルスクール市場は社会の変化とともに発展してきた

インターナショナルスクールは、もともと海外からの駐在員の子どもの教育を目的とした学校として発展してきた。

1872年創立の横浜のサンモール・インターナショナルスクール

その後、日本人の帰国生や国際結婚家庭の子どもたちも受け入れるようになり、教育の対象は徐々に広がっていった。

セントメリーズ・インターナショナルスクール

2000年代後半から2010年代にかけては、日本のIT産業でプログラマーやソフトウェアエンジニア不足が深刻化した。

その結果、多くのインド人IT技術者が来日し、その受け皿となったのがグローバル・インディアン・インターナショナルスクール(GIIS)をはじめとするインド系インターナショナルスクールである。

日本におけるインド系インターナショナルスクールは、単なる教育機関ではなく、日本のIT産業を支える高度外国人材を受け入れる社会基盤として発展した。

グローバルインディアンインターナショナルスクール東京

一方で2000年代以降は、グローバル化や海外大学進学への関心の高まりを背景に、日本人の帰国生や富裕層家庭がインターナショナルスクールを選択するようになった。

市場は「外国人向け」から「日本人向け」へと大きく広がっていったのである。

さらに2022年、中国で習近平政権が3期目へ移行した後、中国国内の教育政策や国際情勢の変化を背景に、日本へ教育移住する中国人家庭が急増した。

その受け皿となったのが、ハロウ安比校、ラグビー日本校、マルバーンカレッジ東京校、ノースロンドン・カレッジエイト・スクール(NLCS)神戸校などの英国系インターナショナルスクールである。

国際バカロレアの基礎を作ったクルト・ハーンがスコットランドに開校させたゴードンストウンは、日本校を2027年に開校する。

英国本校と同等の教育を日本で受けられる環境が整備されたことで、日本はアジアにおける教育移住先として存在感を高めることになった。

そして現在、日本のインターナショナルスクール市場は、新たな発展段階へ移行しようとしている。

それが、半導体・AI産業を支える「産業付随型インターナショナルスクール」である。

「AI時代を支えるのはGPUだけではない

AIサーバーはGPUだけで構成されているわけではない。

AIサーバーには、

  • GPU(AI演算)
  • CPU(制御)
  • HBM(高速メモリー)
  • NAND(データ保存)

という複数の半導体が必要となる。

近年注目を集めているNVIDIAのGPUも、高速メモリーであるHBMがなければ性能を十分に発揮することはできない。

今回マイクロンが広島で増産するHBMは、AI時代の中核となる半導体の一つである。

つまり、日本では熊本のTSMC、北海道のラピダス、広島のマイクロンという三つの拠点が、AI半導体サプライチェーンを支える重要な役割を担うことになる。

半導体工場だけでは世界の人材は集まらない

しかし、世界最先端の半導体工場を建設するだけでは十分ではない。

必要となるのは、

  • 半導体エンジニア
  • 製造技術者
  • 世界中の半導体関連サプライヤー

など、多くの技術であり、日の丸半導体なき後の海外の半導体技術であり、結果的に高度外国人材である。

高度外国人材が日本に駐在する際に、子どもが安心して英語で学び続けられる教育環境がなければ、呼び込むことは難しい。

半導体以外をはじめ、海外では、企業誘致とインターナショナルスクール整備は一体で進められることが一般的である。

日本でも、その流れが現実になり始めている。

シンガポールの隣国として、インターナショナルスクールを規制緩和したマレーシア政府は、「国家半導体戦略」を掲げ、単なる工場の誘致にとどまらない産業のアップグレードを進めている。

 

広大な国土と豊富な水資源を持つマレーシアは、半導体において韓国、台湾を追っている。

教育環境の整備が急速に進む熊本

TSMC進出を契機として、熊本県では国際教育環境の整備が急速に進んでいる。

熊本インターナショナルスクール(KIS)は幼児教育から高校までを見据えた一貫教育体制の整備を進めている。

また、九州ルーテル学院ではアオバジャパン・インターナショナルスクールの教育協力による九州ルーテル学院インターナショナルスクール小学部が開設された。

熊本大学教育学部附属学校 公式サイト

熊本大学教育学部附属学校では、小学校で国際クラスが設置され、公立・私立を問わず地域全体で国際教育環境の整備が進んでいる。

個々の学校改革ではあるが、半導体産業の集積に対応する地域全体の教育基盤整備である。

北海道でも同じ流れが始まる

九州に続き、北海道でも同様の変化が起きている。

日の丸半導体の再興を目指し、国・経産省が中心となりラピダスが立ち上がった。

ラピダスの千歳市進出に伴い、IBMをはじめ世界各国の半導体関連企業やサプライヤー企業の集積が進んでいる。

こうした国際化を見据え、札幌日本大学学園では英国ランシング・カレッジとパートナーシップを締結。駐在員のための学びの準備が進められている。

札幌日大 ランシングカレッジとのパートナーシップ締結調印式

高度外国人材を受け入れる教育環境の整備という点において、地域の産業戦略と方向性を共有している。

半導体産業の誘致は、工場だけでは完結しない。

サプライヤーを含め、人材、住宅、医療、そして教育までを含めた地域全体の受け入れ体制が求められる時代になっている。

半導体産業を呼び戻すための仕組みがラピダスであり、TSMCとマイクロンは半導体安全保障に関わる。

産業とインターナショナルスクールという視点において、外資系と結びつきが深い。

後編では、日本のインターナショナルスクール市場を時系列で5段階で整理し、「教育施設」から「産業インフラ」のキーへと進化する市場構造について考察する。

(後編へ続く)

村田 学

International Education Lab 所長 兼 上席研究員
国際教育評論家

インターナショナルスクールタイムズ株式会社を創立し、インターナショナルスクール専門メディアの運営とプリスクールを経営する。
株式会社Global Step Academy へ転身、インターナショナルスクールタイムズ編集長及び取締役学校事業統括責任者を歴任。

コロナ禍を経て、株式会社セブンシーズキャピタルホールディングスを創立し代表取締役に就任。政府・都道府県自治体向けのインターナショナルスクール誘致のコンサルティング業務及び国際教育評論家として各メディアに執筆をしている。

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