学生寮が2000億円で買収!少子化でも留学生40万人時代で新教育市場が発展その背景とは

留学生40万人時代、投資マネーは教育インフラへ向かう

2026年6月、米投資ファンドのウォーバーグ・ピンカスが学生寮最大手のJSB(ジェイ・エス・ビー)を約2000億円規模で買収する方針を固めた【1】。

学生マンション最大手のJSBの公式サイトより引用

日本経済新聞 2026年6月12日付https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1287Q0S6A610C2000000/

不動産業界のM&Aニュースとして報じられているが、教育市場の視点から見ると、この出来事は極めて象徴的である。

なぜなら、世界の投資家が注目しているのは「学生マンション」ではなく、「教育インフラ」だからだ。

少子化でも教育市場は縮小していない

日本では少子化が進み、多くの大学や学校関係者が教育市場の縮小を前提として議論を行っている。

政府は、少子化に伴う私立大学の統廃合や定員削減の検討を加速させている。
私大の約半数が定員割れとなる中、財務省は今月、2040年までに少なくとも250校の削減、および14万人程度の定員減を求める数値目標を初めて公表した。

財政制度分科会(令和8年4月23日開催)より引用

では、教育市場は縮小していくのだろうか。

実態は必ずしもそうではない。

日本学生支援機構(JASSO)によると、2025年5月時点の外国人留学生数は40万人を突破し、過去最高を更新した【2】。

つまり日本の教育市場は、

  • 日本人学生市場は縮小
  • 留学生市場は拡大

という学生の流れがある。

インターナショナルスクールと同じく、国内人口だけを見て教育市場を分析すると本質を見誤る可能性がある。

ハロウ安比校やラグビー日本校は、生徒の国籍数は30カ国を越え、世界から生徒が応募してくる。

国際高等学校の卒業式には、卒業生と在校生の国旗が並ぶ。

立命館アジア太平洋大学や秋田国際教養大学のように海外からの生徒が過半数を占めるケースもある。また、テンプル大学ジャパンキャンパスは象徴的だ【3】。

同大学は近年、海外からの留学生や日本人学生の増加を背景に規模を拡大し、東京キャンパスに加えて京都キャンパスを開設した【4】。

日本の大学の国際化は、英語のみで学位取得が可能な大学プログラムの増加や海外大学の日本進出により新たな段階に入った。

こうした流れの中で重要になるのが、教育そのものだけではなく、学生が生活する環境である。

投資対象は「建物」ではなく「教育インフラ」

JSBは全国で約10万戸の学生向け住宅を管理し、多くの大学と提携している【5】。

同社の強みは単なる不動産管理ではない。

学生や留学生が安心して生活し、学び、交流できる環境を提供している点にある。

大学の国際化が進めば進むほど、

  • 留学生向け住宅
  • 学生寮
  • 国際交流施設

などの需要は高まる。

ウォーバーグ・ピンカスが注目したのは、まさにこの教育インフラとしての価値だろう【6】。

世界で進む「教育不動産」への投資

実は学生寮への投資は世界で既に大きな市場になっている。

2022年にはブラックストーンが米国の学生寮関連REIT運営会社を約1.6兆円で買収した【7】。

The Wall Street Journal April 19, 2022付

海外では、

  • 学生寮
  • レジデンシャルカレッジ
  • シニアレジデンス
  • 医療施設

などが「社会インフラ型不動産」として評価されている。

そこでは建物そのものではなく、「安定したコミュニティ需要」が投資対象になっている。

また、UNESCOやOECDのデータを見ても、国際学生移動は長期的に拡大傾向にあり、国境を越えた教育需要は今後も増加すると予測されている【8】【9】。

なぜ投資家は教育に注目するのか

教育関連のマーケットは、他のセクターと比較して不況などの景気後退局面でもその影響を限定的にとどめる傾向がある。

さらに近年、世界では、

  • 新興国の大学受験の激化
  • 米国をはじめとする諸国での国際学生に対する入国審査の厳格化
  • 熾烈な大学受験競争を回避しようとする層の出現
  • 国際移動性の高いクロスボーダー型のプロジェクト教育の人気
  • 教育移住の増加

などにより、新たな市場が形成されている。

その中で学生寮は、「学びの場」と「生活の場」をつなぐインフラとして重要性を増している。

特に新しい知識の創造においては、異なる考え方や文化の包括的な取り組みが必要であり、対話が中心となり、グループやチームでの学びが重要になっている。

クリエイティビティの源泉として寮は、新しい知識の創造の場として重要である。

寮の居住環境も大学のクリエイティブな競争力の一部になり始めている。

「教育市場」から「教育コミュニティ市場」へ

今回のJSB買収を単なる不動産取引として見るのは早計である。

テンプル大学ジャパンキャンパスの拡張は、留学生40万人時代の到来の通過点にしかすぎない。

インターナショナルスクール市場の成長や英国系ボーディングスクールの日本進出。
これらは一見すると別々の出来事に見える。

しかし、その根底には共通するテーマがある。

それは、日本が人口減少社会でありながらも、アジアの教育ハブとしての役割を強めているという事実である。

この地政学的なポイントは、日本が海洋国家として再認識する必要がある。

これまで学校の価値は教育サービスとして語られてきた。

しかし今後は、

  • 学校
  • スクールブランド
  • スクールコミュニティ

を含めた「教育エコシステム」全体が価値を持つ時代になる。

世界の投資家は既にその変化に気付き始めている。

JSB買収は、日本における「教育不動産」時代の到来を告げる象徴的な出来事として記憶されるかもしれない。

参考資料

【1】日本経済新聞(2026年6月12日)
「学生寮のJSB、米ファンドのウォーバーグが買収へ 2000億円規模」

【2】日本学生支援機構(JASSO)
「外国人留学生在籍状況調査」
外国人留学生数40万人突破

【3】Temple University Japan Campus
大学概要および学生数推移

【4】Temple University Japan Campus Kyoto
京都キャンパス開設関連資料

【5】ジェイ・エス・ビー(JSB)
会社概要・管理戸数・事業内容

【6】Warburg Pincus
投資実績および日本再進出関連資料

【7】Blackstone
American Campus Communities買収関連資料(2022年)

【8】UNESCO Institute for Statistics
Global Student Mobility Data

【9】OECD Education at a Glance
International Student Mobility Statistics

村田 学

International Education Lab 所長 兼 上席研究員
国際教育評論家

インターナショナルスクールタイムズ株式会社を創立し、インターナショナルスクール専門メディアの運営とプリスクールを経営する。
株式会社Global Step Academy へ転身、インターナショナルスクールタイムズ編集長及び取締役学校事業統括責任者を歴任。

コロナ禍を経て、株式会社セブンシーズキャピタルホールディングスを創立し代表取締役に就任。政府・都道府県自治体向けのインターナショナルスクール誘致のコンサルティング業務及び国際教育評論家として各メディアに執筆をしている。

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