26年 「ほぼインター」と「イギリス系」で日本のインターナショナルスクール市場は次のフェーズへ
一条校の国際化とコミュニティー再編がもたらす構造変化
日本のインターナショナルスクール市場は、いま大きな転換点を迎えている。
2010年代後半から2020年代前半にかけて、日本ではインターナショナルスクールの新設ラッシュが続いた。東京都心部を中心に、プリスクールから小学校、中学校、高等学校までを一貫して運営する学校が次々と誕生した。
背景には、グローバル人材育成への関心の高まり、英語教育需要の拡大、海外大学進学ニーズの増加がある。また、日本国内のインターナショナルスクール数は近年も増加傾向にあり、市場そのものは拡大を続けている*1。
しかし2026年現在、市場は新たな局面へ入りつつある。
日本のインターナショナルスクール市場は「新設競争の時代」から「ポジション争いの時代」へ移行したと考えている。
ラグビー日本校の講堂。 イギリス系の日本での台頭を告げたラグビー日本校
インターナショナルスクールをつくれば生徒が集まる時代ではなくなった。
これからは、どのコミュニティーに支持されるのか、どの教育価値を提供するのかが問われる時代になる。
なぜ国際教育需要は拡大しているのか
この変化の背景には、単なる英語教育ブームでは説明できない構造的な要因がある。
近年、多くの保護者は日本と世界を冷静に比較しながら子どもの教育を考えるようになっている。
その背景には、日本の相対的な国際競争力の低下に対する危機感がある。
日本は依然として世界有数の経済大国である。しかし人口減少と高齢化が進み、1990年代以降は長期的な低成長が続いている。
世界銀行やIMFのデータを見ると日本の一人当たりGDP順位は長期的に低下している。
また世界経済に占める日本のGDPシェアも、1990年代には約15%前後であったものが、現在では4%前後まで低下している*2。
さらに国連の人口推計では、日本の人口は今後も減少を続ける見通しである。
こうした現実を前に、多くの保護者は「日本国内だけで完結する人生設計」に不安を感じ始めている。
その結果、
- 海外大学進学
- 海外就職の可能性
- 複数言語で働く能力
- 国境を越えて移動できる力
を子どもに身につけさせたいと考える家庭が増えている。
現在の国際教育需要は、単なる英語教育需要ではない。
将来の選択肢を広げるためのリスク分散であり、教育版ポートフォリオ戦略とも言える。
近年広がる教育移住やボーディングスクール人気も、この文脈の中で理解することができる。
一条校の国際化が始まった
国内の動向において、最も大きな変化の一つが一条校の国際化である。
これまで「英語で学ぶ」という価値は、インターナショナルスクールの専売特許だった。
しかし近年、多くの私立学校が国際コースやイマージョンプログラムを導入し、国際バカロレア(IB)認定やケンブリッジ国際教育の導入を進めている*3。
背景には保護者ニーズの変化がある。かつては「英語を学ぶ」ことが目的だった。
ネットが普及する前は、アメリカなどの英語で話題なことや物、研究、議論されている内容をいち早く翻訳し、日本に紹介することで時間差によるメリットが大きかったからだ。
リアルタイムのSNSにより英語と日本語のタイムラグが縮小し、英語で情報より深い思考を理解することが必須となった。
そのため現在は「英語で学ぶ」環境そのものを求める家庭が増えている。
インターナショナルスクールだけでなく、一条校もまたこの市場へ参入し始めたのである。
これは日本の国際教育市場における大きな構造変化である。
日本経済新聞は、2026年2月16日に 「東大よりハーバード?英語で学ぶ普通の学校、「ほぼインター」に受験者殺到」の記事を掲載した。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2219K0S6A120C2000000/
本記事は、日経MJに掲載され日経デジタルで掲載されたが、SNSでも大きな話題を呼んだ。
従来はインターナショナルスクールと一条校が別々の市場で存在していた。
しかし現在は、一条校が国際教育市場へ本格参入し、「ほぼインター」と呼ばれる一条校が同じ保護者層を取り合う構図になりつつある。
プリスクール銀座と呼ばれる246号線沿いに昭和女子大学附属昭和小学校は、国際コースを開設し、高い倍率となった
今後、「英語で授業を行う」ことだけでは差別化が難しくなるだろう。
問われるのは教育内容であり、進学実績であり、学校文化であり、コミュニティーである。
キンダーキッズインターナショナルスクールグループは、幼稚園のプロデュースを開始した
株式会社立と学校法人の資本構造の違い
もう一つ見逃せないのが法人形態の違いである。
日本のインターナショナルスクールの約50%は株式会社によって運営されている。
株式会社立の強みは意思決定の速さであり、市場変化への対応力である。
学校法人は、都道府県の私学審議会において審議が必要であり、3年ほどの準備期間が必要であり、世界政治・経済と連携するインターナショナルスクール業界においては、3年の準備期間がリスクとなりうる。
開設に時間がかかる一方で学校法人には税制上の優遇措置が存在する*4。
教育用不動産に関する固定資産税や都市計画税の非課税措置などは、長期的な学校経営において無視できない差となる。
学校経営は、事業計画そのものが10年単位である。戦略そのものの単位が長期戦である。
そのため今後は教育内容だけでなく、法人形態そのものが競争力に影響する可能性がある。
東京インターナショナルスクールがインターナショナルスクール部門を学校法人化したように、今後は株式会社と学校法人のハイブリッドモデルも増えていくかもしれない。
国際高等学校は、一条校として愛知県で国際バカロレアの全寮制ボーディングスクールを開校。一期生から海外合格だけではなく進学率も高い
株式会社立インターナショナルスクールの強みは消えていない
ただし、これは株式会社立のインターナショナルスクールが不利になることを意味しない。
むしろ先行して市場を開拓してきたスクールには大きなアドバンテージが存在する。
アオバジャパン・インターナショナルスクール、ローラス・インターナショナルスクールオブサイエンス、関西国際学園、キャピタル東京インターナショナルスクールなどは、プリスクールから小中高までの進学導線を構築している(現在、中等部、高等部を開設準備を含む)。
これは単なる学校運営ではない。K-12(幼小中高)の強固な教育コミュニティーである。
乳児・幼児期から保護者との関係を築き、小学校、中学校、高校へと内部進学を促しながら、卒業生ネットワークを形成していく。
関西国際学園グループは、関東に中高がないため、国際バカロレアで茗溪学園と提携した。インターナショナルスクールと一条校の小中連携協定は、エポックメイキングである
その積み重ねは、新規参入校が簡単には模倣できない。
なぜならスクールは、乳児期から保護者と12年以上に渡り、信頼関係と教育理念を一致させる時間を積み重ねているからだ。
学校経営の視点から見ると、中学・高校から募集するよりも、幼児期から生徒を受け入れ、長期的な進学導線を構築する方が安定した経営基盤を形成しやすい。
株式会社立のインターナショナルスクールの生徒構成のコンピテンシーは、幼児・初等教育から中高まで厚みを持った「台形型」の生徒構成を築くかである。
渋谷のサクラステージに幼稚部を開園したキャピタル東京インターナショナルスクール。アントレ教育とPBLに強みを持ち、中等部、高等部は、港区の新キャンパスで弾みをつける
株式会社として、新規出店、統廃合の速度を持ちながら、幼児・初等教育で地域でドミナント戦略を確保する。
そして、スクールの内部進学へ誘導し、圧倒的な厚みを重ねる。
これは今後の株式会社立インターナショナルスクールの重要な勝ちパターンになるだろう。
インターナショナルスクールは、コミュニティーの学校である
日本のインターナショナルスクールは、もともと外国人駐在員コミュニティーのために生まれた。
しかし現在、そのコミュニティーそのものが変化している。
2025年末時点で日本の在留外国人数は初めて400万人を突破した*5。
さらに、半導体産業における台湾系人材、IT・AI産業におけるインド系人材など、高度外国人材の流入も進んでいる。
熊本におけるTSMC進出は、産業集積と教育需要が結びつく象徴的な事例である。
つまり今後は、「外国人向け学校」ではなく、「どの国籍・どのコミュニティーを対象にする学校なのか」が重要になる。
インターナショナルスクール市場は、学校の競争から世界経済のAIなどの技術発展、進展とともに駐在員コミュニティー獲得競争へ移行しているのである。
英国系ブランド校が持ち込んだ新しい競争軸
近年の英国系名門校の日本進出も、この変化を象徴している。
ハロウ安比、ラグビー日本校、マルバーン東京、NLCS神戸などは、従来のインターナショナルスクールとは異なる競争モデルを持っている。
彼らは単なる学校ではない。世界的な教育ブランドである*6。
100年から400年以上の歴史を持ち、世界中に卒業生ネットワークを持ち、本校ブランドを活用した国際的な生徒募集を行っている。
イギリス系として日本初として開校したハロウ安比校。一期生の高い成績を誇る
従来の老舗インターナショナルスクールの多くは、日本国内の外国人駐在員や日本人家庭を主要顧客としてきた。
一方、英国系ブランド校はアジア全域を募集市場として見ている。
中国、香港、台湾、韓国、東南アジア、中東などの富裕層家庭を対象に募集を行うことができる。
彼らは日本国内の生徒募集だけを考えているわけではない。
留学生と教育移住層を獲得できるブランドなのである。
学校そのものが教育移住の目的地となり得る。これは日本の国際教育市場にとって極めて大きな変化である。
老舗インターの競争相手は国内ではなくアジアになった
さらに見落とされがちなのが、競争市場そのものの変化である。
教育移住の拡大、オンライン説明会の普及、SNSによる情報共有によって、保護者は国境を越えて学校を比較するようになった。
インターナショナルスクールにとって、現在の競争相手は東京や横浜の新設校ではない。
シンガポールであり、クアラルンプールであり、バンコクである。
アジアには、歴史的に英国系名門校や世界的な学校グループが運営する学校が数多く存在する。
英語環境、多国籍コミュニティー、海外大学進学実績、ボーディング環境などを考慮した場合、日本以外の選択肢を選ぶ家庭も増えている。
実際、アジアは世界最大のインターナショナルスクール市場となっており、世界のインターナショナルスクールの約6割が集中している*7。
日本のインターナショナルスクール市場は、国内市場ではなくアジア市場の一部になったのである。
今後問われるのは、日本国内での知名度ではない。
アジアの保護者から見て選ばれる理由を持っているかどうかである。
第二成長期へ
現在、日本の国際教育市場では、
- 一条校の国際化
- 学校法人の参入
- 株式会社立インターナショナルスクールの成熟
- 外国人コミュニティーの再編
- 高度外国人材の流入
- 英国系ブランド校の進出
- 教育移住市場の拡大
が同時に進行している。
その結果、市場は「学校同士の競争」から「コミュニティー獲得競争」へ移行している。
これから問われるのは、英語で学べるかどうかではない。
どのコミュニティーに価値を提供するのか。
どのような人材を育成するのか。
そして、どのような教育エコシステムを形成するのか。
日本のインターナショナルスクール市場は、新設ブームの時代を越え、第二成長期とも呼べる新たなフェーズへ入りつつある。
参考資料
*1 ISC Research Japan Report
https://iscresearch.com/reports/japan/
*2 IMF World Economic Outlook Database
https://www.imf.org/en/Publications/WEO
World Bank Data
https://data.worldbank.org
United Nations Population Prospects
https://population.un.org/wpp/
*3 IB日本コンソーシアム
https://ibconsortium.mext.go.jp/
Cambridge International Education
https://www.cambridgeinternational.org/
*4 文部科学省 私立学校に関する税制
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/
*5 出入国在留管理庁 在留外国人統計
https://www.moj.go.jp/isa/
*6 Harrow International Schools
https://www.harrowschool.com/international
Rugby School International
https://www.rugbyschoolinternational.com
Malvern College International
https://www.malverncollegeinternational.org
NLCS International
https://www.nlcsinternational.co.uk
*7 ISC Research Global Market Report
https://iscresearch.com/the-international-schools-market-in-2025/
ISC Research Asia Market Analysis
https://iscresearch.com
International Education Lab 所長 兼 上席研究員
国際教育評論家
インターナショナルスクールタイムズ株式会社を創立し、インターナショナルスクール専門メディアの運営とプリスクールを経営する。
株式会社Global Step Academy へ転身、インターナショナルスクールタイムズ編集長及び取締役学校事業統括責任者を歴任。
コロナ禍を経て、株式会社セブンシーズキャピタルホールディングスを創立し代表取締役に就任。政府・都道府県自治体向けのインターナショナルスクール誘致のコンサルティング業務及び国際教育評論家として各メディアに執筆をしている。