中東発のインターナショナルスクールに注目〜教育覇権の新たなプレーヤー〜
不動産デベロッパー「アルダー」がラグビー校を経営し、日本を目指す理由

2026年、ドバイに英国の名門「ラグビースクール」が開校する。このニュースの背後には、単なる学校進出を超えた巨大な戦略が潜んでいる。

事業を主導するのは、UAE・アブダビを拠点とする巨大デベロッパー、アルダー・プロパティーズ(Aldar Properties)だ。

開発計画は、近未来映画を見ているようだ。

彼らは不動産開発の枠を超え、自社で「Aldar Education」を運営する教育の当事者でもある。

日本では、民間企業が学校経営に参画することは構造特区以外では稀だが、世界ではシンガポールを筆頭に、民間資本による高度な学校運営がスタンダードになりつつある。

特に中東の産油国は、王政(君主制)が多く、国王やエミール(首長)が国家の最高権力者である。

そのため、国王が「国民に教育を施す」点が特徴である。

2007年に最初の学校を開校したアルダーグループは、生徒数250名からスタートし、現在ではUAE全土で31校、3万3,000名以上の生徒を抱える大教育グループである。

アブダビ王家筋のアルダーが、なぜこれほどまでに教育に執着し、そして今、日本という市場に熱い視線を送っているのか。その真意を解き明かしたい。

都市の格付けを決定づける「教育」というインフラ

アルダーにとって、教育は不動産価値を最大化するための「最強の装置」である。彼らはアブダビを「中東のシンガポール」へと変貌させるべく、ルーブル美術館の誘致やNYU(ニューヨーク大学)アブダビ校の設立など、文化・教育への投資を戦略的に行ってきた。

家族帯同で移住するグローバル・エリート層にとって、居住地選びの最優先事項は常に「子供の教育」だ。

アルダーはラグビー校のような超名門ブランドを自社の街づくりに組み込むことで、周辺不動産の価値を劇的に高め、世界中から富裕層を呼び込む戦略を取る。

彼らにとって学校経営とは、単なるサイドビジネスではなく、都市の格付けを上げ、国家の未来を創るための戦略的基盤そのものなのである。

アルダースクールのポートフォリオには、英国系スクールとアメリカ系スクールがある。

中東三つ巴の覇権競争と「日本」という新たなフロンティア

この動きの背景には、サウジアラビアやカタールといった隣国との熾烈な覇権競争がある。圧倒的な人口規模で猛追し、2030年までにリヤドを世界トップ10の住みやすい都市にすると掲げるサウジアラビアの「ビジョン2030」だ。

中東の資源国は、人口増加と近代化のために社会投資を必要としている。

サウジアラビアの「ビジョン2030」は、ゲノム開発から「THE LINE」と呼ばれる新たな町開発と紅海のマリンリゾートの開発と幅広い。

まさに国の威信と未来の産業構造の変化を先取りしようとしている。

そして、教育都市(エデュケーション・シティ)を先行して築き、欧米の名門大学を集積させたのは、産油国の中でもカタールである。

宗教戒律も弱く、欧米の学校がカタールに開校しても飲酒ができるなど欧米的な文化を持つ小国カタールならではの展開であった。

これらライバルに対し、アブダビ(アルダー)は「実業と洗練された生活の質の融合」で差別化を図っている。

アルダーが昨秋に来日し、日本各地を視察した事実は、この競争が新たなフェーズに入ったことを示唆している。

彼らは中国市場からの資金シフトを進める中で、日本の「規律」や「安全性」、そして未開拓のインターナショナルスクール市場に、次なる投資の好機を見出しているのだ。

伝統的な「学校法人」による運営が限界を迎えつつある日本において、中東王家系デベロッパーが主導する「不動産×教育」の融合モデルは、既存の教育界に大きな地殻変動を起こす可能性がある。

世界を動かす中東のオイルマネーが、日本の教育風景をどう塗り替えていくのか。

次の一手から目が離せない。

村田 学

International Education Lab 所長 兼 上席研究員
国際教育評論家

インターナショナルスクールタイムズ株式会社を創立し、インターナショナルスクール専門メディアの運営とプリスクールを経営する。
株式会社Global Step Academy へ転身、インターナショナルスクールタイムズ編集長及び取締役学校事業統括責任者を歴任。

コロナ禍を経て、株式会社セブンシーズキャピタルホールディングスを創立し代表取締役に就任。政府・都道府県自治体向けのインターナショナルスクール誘致のコンサルティング業務及び国際教育評論家として各メディアに執筆をしている。

上部へスクロール