モンテッソーリ・スクール・オブ・東京が描く「高等部」の未来――自立した変革者を育てる18歳までの教育とは
日本で唯一、幼児から中等部までのモンテッソーリ教育を提供してきた同校が、ついに高等部(グレード10〜12)を開校し、18歳までの一貫教育を完成させます。なぜ今、高校なのか。そして、そこで展開される学びとはどのようなものなのか。ジェームス校長に話を伺いました。
東京都港区南麻布にあるモンテッソーリ・スクール・オブ・東京(MST)の屋上庭園「Grove Campus」に生徒さん手作りのバナナブレッドとフレーバー昆布茶である「マンゴー昆布茶」が並びます。「これらはすべて、生徒たちが自分たちの手で作り、販売しているものなんですよ」そう笑顔で語るのは、同校のジェームス校長です。一口いただくと、マンゴーのフルーティーな香りとほのかな酸味。コンブチャの奥深い味わいが広がりました。
まさに西洋と東洋の融合――。しかし、これは単なる「おやつ」ではありません。「実社会との接続(Real Work)」であり、「マイクロ・エコノミー」の成果物なのです。
悲願だった「18歳までのモンテッソーリ」の完成
「なぜ今、高校を作るのか?」という私の問いに、ジェームス校長は力強く答えてくれました。「20年以上の歴史の中で、保護者の方々から常に『高校はいつできるのか』と問われ続けてきました。モンテッソーリ教育は幼児期だけのメソッドではありません。18歳までの一貫したカリキュラムが存在し、世界中で実践されています。
今回、高等部を開設することで、1歳から18歳までの完全なモンテッソーリ教育の連続性(コンティニュアム)を、ここ東京で提供できるようになるのです」これまで日本国内には、モンテッソーリの小学校・中学校まではあっても、高校課程へ接続する選択肢は限られていました。
慣れ親しんだ「探究型」の学びを、思春期という最も多感な時期に中断することなく、さらに深めていける環境。それは生徒自身の強い願いでもあったそうです。
教室は「社会」マイクロ・エコノミーという実践教育
MST高等部の最大の特徴は、徹底した「実社会との接続(Real Work)」にあります。その象徴が、冒頭のバナナブレッドやコンブチャを生み出す「マイクロ・エコノミー」というプログラムです。
「ここでは、生徒たちがカフェを運営し、ケータリングサービスを展開します。単に料理を作るだけではありません。予算を組み(数学・金融)、スプレッドシートで管理し(IT)、どうすれば売れるかを考え(マーケティング)、自分たちで稼いだ利益の使い道まで議論して決定します」と、ジェームス校長は語ります。
「作るだけで終わる学校は多いですが、ここではファイナンスからマーケティングまで、ビジネスの全工程を生徒が担います。大人がお膳立てするのではなく、失敗も含めて生徒自身が運営する。これこそが、社会に出るための最高のリハーサルなのです」。
机上の空論ではない、生きた経済活動がここにはあります。
「教育を子どもに合わせる」個別化されたアカデミズム
インタビューの中で気になったのが、基礎学力です。いわゆる「お勉強」はおろそかになるのでしょうか?ジェームス校長は即座に否定します。「モンテッソーリは『遊び』だと誤解されがちですが、アカデミックなコアカリキュラムは強固に存在します。ただ、アプローチが違うのです」例えば、クッキーを焼くプロセス一つとっても、そこには化学変化や計算、歴史的背景などの学びが内包されています。
教師は「ティーチャー(教える人)」ではなく「ガイド(導く人)」として振る舞い、生徒一人ひとりの興味関心から問いを引き出し、学問的な探究へと繋げていきます。
「全員が同じ教科書を、同じスピードで学ぶ必要はありません。テストの点数のために学ぶのではなく、自分の『知りたい』を突き詰めることで、より深く、複雑な概念を理解していく。それがモンテッソーリのアカデミズムです」。
MSTに入学するには?
では、MSTに入学したい場合、どのような入試が待っているのでしょうか。ジェームス校長にお聞きするとMSTのアプローチは一貫しています。
「学力テスト(ペーパーテスト)は行わない」のです。「テストの点数は、その人の本質を表しません。私たちが見たいのは『ポートフォリオ』です。あなたは何に興味があり、何を作り出し、どんな情熱を持っているのか。そして、私たちのコミュニティの一員として、リスペクトや思いやりを持てる人物かどうか。そこを重視します」
英語力に関しても、サポート体制(EAL)が整っており、完璧である必要はないとのことです。「英語ができるか」よりも「モンテッソーリの学びへの適性」を見るという姿勢は、多くの親子にとって勇気付けられるメッセージでしょう。
また、多様な生徒を受け入れるための奨学金制度も用意されています。
参考リンク:MST奨学金について
世界とつながる「チェンジ・メーカー」の育成
卒業後の進路については、同校は、国際的な教育認定機関である「Cognia(コグニア)」の認定取得を進めています。
日本の大学を含む世界中の大学への入学資格が得られる予定です。
文科省:大学への志願資格を持つ国際認定機関について
ジェームス校長が見据えるのは大学進学だけではありません。「インターンシップや起業、あるいは海外のモンテッソーリ校との交換留学など、生徒たちは多様なパスウェイ(進路)を描くでしょう。重要なのは、彼らが『自分は何者か』を理解し、自立した『チェンジ・メーカー(変革者)』として社会に巣立っていくことです」。
インタビューを終え、屋上庭園を後にする際、生徒たちが自作のピンボールマシンでイベントの準備をしている姿が見えました。「Make education fit children(教育を子どもに合わせる)」。ジェームス校長の言葉通り、ここでは子どもたちが教育という枠組みに縮こまることなく、自らの意思で学び、社会と関わり始めています。
日本初となる「モンテッソーリ一の高等部」の誕生は、日本の教育界に新たな「選択肢」と「希望」をもたらすことになるでしょう。
International Education Lab 所長 兼 上席研究員
国際教育評論家
インターナショナルスクールタイムズ株式会社を創立し、インターナショナルスクール専門メディアの運営とプリスクールを経営する。
株式会社Global Step Academy へ転身、インターナショナルスクールタイムズ編集長及び取締役学校事業統括責任者を歴任。
コロナ禍を経て、株式会社セブンシーズキャピタルホールディングスを創立し代表取締役に就任。政府・都道府県自治体向けのインターナショナルスクール誘致のコンサルティング業務及び国際教育評論家として各メディアに執筆をしている。