IELギフテッド・2E教育通信 第1回
ギフテッド・2E学会 是永かな子会長に取材しました
文責:ギフテッド・2E研究家/Gifted & 2E Advocate 山田亜希子
国際教育の文脈でギフテッド・2E教育を扱います
International Education Labの山田です。私の経験から、困っているギフテッド・2E児を見かけることがよくありました。ただ、彼らの多くは悲しんでいるというより怒っていること多いように思います。悲しんでいても怒っていてもストレスはストレス。どうにかして私たち大人が彼らの過度なストレスを減らしながら、強みを活かし、社会の中でハッピーになれるサポートをしていきたいものです。
「特定分野に特異な才能のある児童生徒」については日本の学校において未だ対応が不十分であるため、文部科学省として2023年度から予算を確保し、大学や民間団体と連携して具体的な指導プログラムの作成や実証研究を行っています。日本における未来の国際教育について考える上で、特定分野に特異な才能のある児童生徒、つまり、ギフテッド・2E教育の現状や今後の施策について調査し、適切な学習支援や、精神的なサポートを模索することはInternational Education Labとしても重要事項であると考えます。
私がこのテーマを担当することになった理由としては
- 特異な才能のある生徒のコーチングを担当していたこと
- インターナショナルスクールにおいて該当する生徒を多く見てきたこと
- 私自身や中学生の娘も当事者であること
が挙げられます。日本におけるいわゆるギフテッド・2Eのための教育について有識者にヒアリングし、皆様にできる限り正確な現状をお伝えしていきます。
第1回目ヒアリングはギフテッド・2E学会の是永会長
今回はギフテッド・2E学会の会長であり、高知大学教育研究部教職大学院の是永かな子教授にお話をうかがうことができました。「日本ギフテッド・2E学会(JAGTEC)」は、高い知能・才能を持つギフテッドと、発達の凸凹(障害)を併せ持つ2E(twice-exceptional)の支援・研究を目的に、2024年に発足した日本初の専門学会で、心理、教育、医療、社会学の専門家が連携し、才能開発と生きづらさの解消の両面から研究と支援体制の構築を目指しています。
会長の是永先生は北欧におけるギフテッド・2E教育の調査を元に日本の公立学校でのギフテッドを想定した教育の実践研究なども行っており、ギフテッド児の特別な教育ニーズに対する研究を元に実際に現場で具体化できるような教育方法を模索されています。
北欧、特にデンマークで提供されているようなギフテッド教育について、同様の取り組みを日本でも展開することは可能かどうかについてうかがったところ、「日本で同じような教育を提供するならば、可能性が最も高いのは通級における実践であろう」、ということでした。デンマークの2015年の調査でも通級的な介入、一時的な介入が効果的であると指摘されているそうです。
詳しくお知りになりたい方はこちらのレポート(PDF形式)をご覧ください
ギフテッド・2Eの対応は通級指導教室で
私はしばらく東京に住んでいるため、通級指導教室と特別支援教室をまとめて「まなびの教室」と認識していました。しかしながら自治体によっては通級指導教室と特別支援学級が分かれているところも多いということです。また、通常の学校であれば通級指導教室や特別支援学級担当教員には通常の教員の免許以外の特別支援学校教諭免許や資格は必要ないことを今回知りました。
ちなみに通級指導教室は特定の障害等を持つ児童生徒に対し、週に数時間程度、通常の学級以外の場で指導を行うこと、特別支援学級は情緒障害等を持つ児童生徒に対して指導を行う学級です。
ギフテッド・2E児の対応については、是永先生の過去のインタビューの中でも学校の活動や場面によって必要な児童生徒や内容が変わるとおっしゃっていたように、一般の教員が支援を担う場合にハードルが高いように思います。
これについて是永先生は「教員が行うべきは 課題の設定および環境の設定である」とお考えとのことでした。まず大事なのは探究的な深い学びができるような課題・環境設定であり、それがきちんとできていればギフテッド児は自ら探究していくということです。
つまり、探究学習をするための課題・環境設定としての教材・教具、場所などのハード面とピア(同質)集団や学び合う関係性としてのソフト面を構成することが大事であるとご説明いただきました。
ギフテッドか2Eかの判定をする、ではなく、現状、全ての学級集団において上位数名は「暇」になっていることを想定すると、そういった学びが必要な児童生徒はほぼ全学級にいると考えられます。その対応として担当教員は子どもを枠にあてはめすぎないということ、子どもを信じて教えの一部を手放して子どもにゆだねることが重要であるとのことでした。
私が学校の現場を見たり、先生からの相談を受けたりする中で分かったことは、今まで全て教えるスタイルでやってきているために、一部の先生にとっては、そこから手法を変えるのはなかなか困難だということです。全て教える、訂正するのをやめて、見守る、考えることを促して待つ、というスタイルにマインドを切り替えるにはある程度の慣れが必要なように感じます。
ギフテッド・2E児に対する誤解
私の認識では、2Eに限らずギフテッドは「非同期発達」という知能、情緒、身体、社会性の発達スピードが不揃いな状態になる特性を持っていることがあります。世間一般に誤解されやすいのは「知能が高いんだからなんでもできるだろう」ということで、これが周りの過度な期待になり、またギフテッド児が「怠けている」「わがままを言っている」「調子に乗っている」と言われる原因になったりします。
この非同期発達は大人になるとバランスが取れてくるように思うのですが、是永先生にうかがったところ、「勝手に発達が追いついてバランスが取れると言うよりは、本人が工夫をして不足した部分を補う力を身につけて、表向きにバランスが良いように見えるようになる」という側面が大きいということでした。
また私は現状、未成年のギフテッド判定には知能検査WISCの結果を用いることが多く、その数値が高いということが本人や親のプレッシャー、または勲章のようになってしまうケースがあると思っています。
ギフテッド・2E児に必要なのはプレッシャーでも勲章でもなく、幸せな未来であり、そのためにどう自分の個性を伸ばして、この社会での生き方を身につけるかということではないでしょうか。
是永先生によると、デンマークの特定の基礎自治体ではギフテッド教育の専門家が保護者からの相談を受け付けたり、保護者を対象とした面談を行ったりしているそうです。
ギフテッド・2Eの判定方法について
私の認識では、ギフテッドと2E児の高い能力についてはWISCだけでは十分に判断できないということはよく言われています。それについて是永先生は、「教育的観点から見ると、日々の授業での様子と学力テストで判断することが良い」とお考えで、「フィンランドやスウェーデンもその方法で判断している」ということでした。その理由として「発達検査を受けに行くハードルが高く、家庭の文化的資源や地域資源に左右されることが多い」ということがあり、あくまで「発達検査等はデンマークと同様に「特別な」教育課程や「特別な」場での支援の対象になるときに活用する方が良い」ということでした。
昭和初期から末期にかけて学校で実施されていた知能テスト
私から是永先生に今まで謎に包まれていた昔学校で行われていた知能テストが何だったのかについて質問をしてみたのですが、あまり正確な文献はないとのこと。私の経験では、昔は幼稚園でも小学校でも中学校でも知能検査があり、数値が低い生徒だけでなく、数値が高い生徒の家庭にも担任から連絡が行っていたのですが、私の認識では、このテストは昭和末期を最後になくなっています。
私の場合は大人になってから初めて病院で正式な知能検査を受けましたが、私が子どもの頃は幼、小、中と3回学校から親に連絡があり、毎回「もっとちゃんとできるはず」というお叱りを受け、それが2倍くらいの強度になって親から私への叱責となっていたので、私にとっては単にとても迷惑なテストでした。典型的な間違った知能検査の使われ方だったと今になって思います。
同年代や大人からの誤解やプレッシャー、そして思い通りにならない自分自身に対する不安や苛立ちを抱えている彼らは、同じような状況にある人たち、そして同じような状況にいたことがあり、それを乗り越えた人たちと接することで、前向きになれることがあると私は思います。
ピア(同質)集団のサポートについて
私はギフテッド・2E児の教育については「おだてずに社会で円滑に関わるためのコミュニケーション力をつけるサポートをする」「親や学校が邪魔せずに本人が極めたいことをサポートする」ことが大事だと思っています。こういったスキルを身につけるためのサポーターとして、強みを活かし、社会で円滑にコミュニケーションが取れるようになった元ギフテッド児、元2E児、現社会人の力も借りたら良いのではないかと思っています。やはりギフテッド児に共感し、またギフテッド児が納得するような説明ができる大人との接触は、彼らの良い刺激になるのではないでしょうか。
是永先生もピア(同質)集団の保障は重要だとお考えで、ピアが集まる場所の保障、保護者・当事者団体の活用が重要ができるとのことでした。ギフ寺やギフテッド応援隊、ROJEなどの団体がそういった活動をされているそうです。
また、是永先生のアイディアとしては、なかなか大人が自分から元ギフテッド児でした、2E児でしたと宣言するのも難しいことがあったり、ご自身がそのように認識していない場合もあるので、ギフテッド・2E児が自分がやりたいことの延長線上で、それを実現している大人に話が聞けるようになると、自然とその中に同様の特性を持った成人がいて、そういう方々と出会えるのではないかというお話をいただき、深く納得いたしました。
現在もそのような取り組みはあるものの、研究者と繋げるパターンが多いようです。
今後もギフテッド・2Eを扱う専門家や団体の方にお話をうかがっていきます
SNSが発達したせいで、ネット上にはギフテッド・2Eに関する不確かな情報、嘘の情報、商売の宣伝のための情報が溢れています。目にするものを鵜呑みにせずに、まずは確かなソースから情報を集めるようにしていただければと思います。
ギフテッド・2E教育通信の第1回はギフテッド・2E学会 会長の是永かな子教授にお話をうかがいました。今回の是永先生のお話から、ギフテッド・2E児への支援は、専門的な介入だけでなく、まずは教員による環境設定や、当事者同士のピアサポートの重要性が示されました。是永先生、突然のお願いに快くご対応いただきまして、ありがとうございました。
次回は、皆さんもよくご存じのギフテッド・2E教育をサポートする団体への取材をもとにした記事を掲載いたしますので、ぜひお読みください。
高知大学教職大学院 教授
ギフテッド・2E学会 会長
■ 主な研究テーマ・活動
主たる専門は北欧における特別ニーズ教育のシステムと実践についての研究であるが、日本における特別支援教育のシステム・方法の検討も行っている。障害児にかかわる専門性を中核としつつも、通常学級に在籍する障害、LD、ADHD、自閉スペクトラム症の子どもへの教育的対応を考察している。同時に不登校、被虐待、心身症、病弱、外国人子弟など、様々な特別な教育的ニーズをもつ子どもへの教育的対応である「特別ニーズ教育」も視野に入れて研究を行う。また高知県における特別支援学校や特別支援学級、通級の実態調査など、高知県における特別支援教育の具体化のための研究も手がけている。
■ 所属学会
日本教育学会,日本特殊教育学会,日本発達障害学会,教育史学会,日本LD(学習障害)学会,日本社会福祉学会,日本教師教育学会,日本職業リハビリテーション学会,Nordisk forening for pedagogic forskning/Nordic Educational Research Association,北ヨーロッパ学会,バルト=スカンディナビア研究会,日本比較教育学会,日本授業UD学会,日本発達障害支援システム学会,日本学級経営学会
■ 研究する理由
- 人はみんな「障害」をもつ可能性を有しているから。
- 何かが「出来ない」人を排除していく能力主義・競争社会では、いつかは自分も排除されてしまうから。
- 「弱者」を極力作り出さない社会のために、差異ある個人がいかに共生していくのかを考えたいから。
- 高等教育を受けることが出来た人は、その可能性を奪われた人の分まで頑張るべきだと思うから。
International Education Lab メディア担当/事務局
CTIS English Academy PBL英語カリキュラム設計・指導担当
ギフテッド・2E研究家/Gifted & 2E Advocate
ドイツとイギリスのインターナショナルスクールに通った後、帰国子女として立教大学文学部日本文学科に入学。卒業後は国際業務や新規事業の仕事を中心にメディア、IT、飲食、教育業界でプロジェクトリーダーから代表取締役まで務めた。会社の英語研修や新入社員や幹部候補の人材育成をしていく中で本格的に教育の仕事をすることを決心し、角川ドワンゴ学園でのPBLの企画や指導、カリキュラム編成、帰国子女向けの英語プログラムの企画や指導を担当。また、優秀層の生徒や教員のコーチングなども行なった。その後、キャピタル東京インターナショナルスクール(CTIS)立ち上げ直後から2年半、事業部長としてインターナショナルスクールのオペレーションを統括、現在はCTISの顧問をしながら2026年にスタートするCTIS English Academyのカリキュラム作成を行なっている。
ギフテッド・2E研究家としては2Eの当事者の立場で社会に適応した大人が語る教育関連の考察を発信。研究者でも支援者でもない、「生き延びた側からの構造批判」を軸に、子どもたちの可能性が潰されない社会を探究する。さらに、大人になったギフテッド・2E当事者へのアプローチも展開中。